背景
Aさんの祖母(母の母)が亡くなり、相続人は、先に亡くなっていたAさんの母の代襲相続人であるAさん、弟のBさん、養子に入っていた父のCさん、おばのDさん、Eさんとなりました。
法定相続割合は、Aさん8分の1、Bさん8分の1、Cさん4分の1、Dさん4分の1、Eさん4分の1となります。遺産は、不動産が約750万円、預貯金が約1600万円ありました。おばのDさんから、「Aさん、Bさん、Cさんは、生前贈与を受けているはずだ」と言った主張を受けて遺産の分割に関するお話が進みませんでした。Aさんとしては、Dさんの生前贈与の主張に心当たりはありませんでした。
弁護士の関わり
Aさんから依頼を受けて、他の相続人を相手として祖母の遺産に関する遺産分割調停を申立てました。Dさんは、調停においても変わらずAさん、Bさん、Cさんが生前贈与を受けている、と主張していましたが、この根拠となる資料は何ら提出されませんでした。その一方で、Dさんは、弁護士に依頼せず自分で作成し提出した資料の中で、遺産の預貯金から500万円を出金して保管していることを認めていました。
お話は双方平行線で調停成立の見込みは無い反面、Dさんから、生前贈与を基礎づける資料の提出もなかったことから、調停に代わる審判、という裁判所の判断が下され、Dさんが500万円の遺産を既に取得していることを前提とした内容で遺産分割が成立しました。
所感
・他の相続人との話合いが平行線となったり、そもそも他の相続人と連絡がつかないために遺産分割の協議が成立しない場合、不動産の名義はいつまでも被相続人のままで移転できませんし、預貯金や有価証券などの遺産も塩漬けとなってしまいます。このような場合、相続人を相手に遺産分割調停を起こして、裁判所を通して、他の相続人と話合いをおこなう、というのが定石です。話合いの結果調停が成立することも多いですし、話合いではどうしても平行線であったり、他の相続人がそもそも裁判所からの呼び出しを無視して調停にこないような場合には、審判、又は調停に代わる審判、という形で裁判所が判断を下してくれ、その判断に対して相続人全員が異議を申立しなければ、審判が確定し、審判書でもって不動産の名義を変更したり預貯金を解約したり有価証券の名義変更をおこなうことができるようになります。本件でも、AさんとDさんとが折り合うことは最後までできませんでしたが、裁判手続によって、遺産分割としては決着を見ることができました。
・なお、家庭裁判所における遺産分割手続、というものは、あくまでも、遺産分割時点で現存している遺産、を分ける手続です。例えば、子の1人が、親の生前に、預貯金など親の財産の大部分を使ってしまい相続発生時点ではこれがほとんど残っていない、といった場合には、他の子からこの財産を使ってしまった子に対しその返還を求めるためには、遺産分割調停・審判ではなく、地方裁判所における民事訴訟、という別の手続が必要になってきます。ただ、本件のように、相続人の1人が、出金したお金をきちんと保管している、と自ら認めている場合には、その出金したお金も遺産に含まれることを前提に判断がされます。
・被相続人のお金が生前に出金されているなど不信な点があり、そのために他の相続人と話合いが平行線となって遺産分割協議が成立しない、という方は、遺産分割調停の経験豊富な当事務所にご相談ください。